擬態の進化


もともと擬態という現象については興味があって前に先生から勧められたこの本をようやく読むことができました。

この本の著者、大崎直太先生は今は山形大学にいて国際交流関係でご活躍のようです。

”擬態進化の謎解きは、進化生態学の発展と軌道重ねて進行した。本書は神が生物を創造したと信じられた時代に、ダーウィンの進化論が生まれ、激しい時代の抵抗にあいながら、進化生態学の発展した過程と、発展に寄与した人々がたどった苦難の人生を紹介している。”(引用)
ここで紹介されたようなストーリーは是非、本書を読んで楽しんでもらって、この記事では、本書で出てくる進化生態学で用いられている学説などをまとめたいと思います。

擬態

擬態という現象は節足動物だけでなく、様々な動物に見られる。歴史的に特にナチュラリストと呼ばれる人々を魅了してきたのはチョウの翅の模様だ。木肌の模様や、枯葉の模様、他のチョウの羽の模様など様々なものに擬態している。どのようにしたらこのようなことができるのか非常に興味深い。

ベイツ型擬態

ベイツ型擬態は、本来捕食者(鳥など)にとっては味の良い種が、警告色をもつ味の悪い種に擬態している例。 この擬態によって、擬態種は本当は味が良いにも関わらず捕食者からの捕食を避けられる。 今では、捕食者(主に鳥)がこの警戒色を学習している(つまり警戒色をもつ生物のうち学習されるまでは捕食されてしまう)ことが分かっているが、ダーウィンの時代には鳥は本能的に知っていると考えられていた。

ミューラー型擬態

ミューラー型擬態は、味のまずい種同士が似る擬態である。味のまずい種は、同時に警告色という派手な体色や模様をしている。この警告色とまずい味をを鳥などの捕食者が学習することで、ミューラー型擬態種は捕食を逃れるメリットを得られる。


ダーウィンの進化論

ダーウィンの進化論では、種は不変でなく徐々に変化し、変種になり、変種は長い時間をかけてさらに変化して新たな種になると主張している。 この主張は、神が全ての生物を創造したと信じられていた当時の社会から激しい反発を招いた。 ベイツが南米で発見した地域間によってチョウの羽の模様が断続的に変化するということが、このダーウィンの進化論を強く支持する結果となった。

生存競争と自然淘汰

それぞれの種の中で、各個体は生き残りをかけて生存競争を行い、他の個体よりもわずかでも有利な形質を持つ個体が生き残る機会に恵まれ、自然に淘汰される。 つまり、種は不変ではなく変異個体を生み出している。そして、時間が積み重なるに従い元の種から変異種となり新たな種になる。と、考えた。

性淘汰

性淘汰は繁殖可能な自分の子供をより多く残すことのできる形質の進化を促すことである。 カブトムシやシカのオスにはメスにはない角がある。ライオンやクジャクのオスにはメスにはない鬣や飾り羽根がある。このオスとメスの間の形質の違いは生存競争と自然淘汰では説明できなかった。同じ環境に住む同じ種のオスとメスでは同じ淘汰圧がかかるはずだからである。

 性淘汰は一般的にオスに強く作用する。メスの場合残せる子供の数は自分が産める子供の数に限られている。一方オスの場合は関わるメスの数が増えればそれだけ多くの子供を残せるからである。 よってカブトムシやシカのオスの角は結生をめぐって争武器として進化した。一方ライオンやクジャクのたてがみや飾り真似はメスを惹きつける、求愛の道具として進化したとダーウィンは考えた。 前者を同性内性淘汰、後者を異性間性淘汰という。
 
この性淘汰は、進化には生存競争、自然淘汰によって生じる個体の生存に関わる淘汰だけでなく、生物には繁殖に関わる淘汰が働いていることを指摘したのだ。

頻度依存選択-それぞれの擬態がどのように集団で広まるか

頻度依存選択は、集団中のその形質が多いか少ないかに依存することを説明した淘汰である。 これには正の頻度依存選択と負の頻度依存選択がある。

正の頻度依存選択

正の頻度依存選択は、ある形質が多数派であるだけで、生存と繁殖に有利に働くなら、その集団でその形質は広まり、すべての個体が同じ形質をもつ。 ミューラー型擬態は正の頻度依存選択の例である。 ミューラー型擬態では、味のまずい種が相互に似ることにより、個々の種の被害個体を減らすことができる。鳥が味のまずさと模様を覚えるためには学習が必要だからだ。これは、集団中で同じ模様を持つ個体が多ければ多いほど有利である。

負の頻度依存選択

負の頻度依存選択は、ある形質が少数派であることだけで有利に働くなら、多型が維持される。 ベイツ型擬態は負の頻度依存選択の例である。 ベイツ型擬態は、モデルとなる味のまずい種の模様に、味が良い擬態種が模様を真似する現象である。この擬態種が数を増すと、鳥などの捕食者は味の悪いモデル種を食べて、学習する機会が減ってしまう。そのため、ベイツ型擬態種は集団中で同じ模様を持つ個体が少なければ少ないほど有利である。

警告色という利他的形質が広がったことの説明

血縁淘汰

血縁淘汰は、自然淘汰や性淘汰、頻度依存選択でも説明できない現象を説明した。血縁淘汰は、共有する遺伝子の割合から利他的行動を説明した。
 頻度依存選択では、鳥がまずい味のチョウを食べて味を学習して、その後鳥がそのようなチョウを避けることを前提にしている。鳥が学習し記憶を定着させて、チョウを食べるのを避けるまでに犠牲となるチョウが必要だということである。 これは、ダーウィンやウォレスは一部の犠牲者の存在は種全体にとってはプラスなので適応的と考えた。
 しかし、警告色は味のまずさと結びついて進化した。よく目立つ警告的な色を持つ個体が犠牲になって捕食者に味のまずさを示して、他の個体を守るような進化した。これはダーウィンの進化論の基本である利己的な振る舞いとは全く逆の利他的な振る舞いである。

 この、犠牲者になり、本来は絶滅する可能性が高そうな警告的な色の遺伝子がどのようなメカニズムで全体に広がり優勢になったのかを説明するのが血縁淘汰である。

 フィッシャーは、味のまずい個体が家族として集団中で生活しているならば、その中から犠牲者が出ても、その結果守られるのは家族で、犠牲者と同じ遺伝子をもった他個体の生存率は上がるだろうと考えた。そのような、血縁者を救う利他的な行動は進化する。

 このように、生存率というものを自分という個体だけでなく自分と同じ遺伝子をもつ個体まで拡張したのがこの血縁淘汰といえるだろう。

 しかし、これは警告色を持つ種が家族などの血縁者で集団を作っていることを前提としており、すべての警告色を持つ種が血縁集団でいるわけではなく、単独で生活する種もいる。それは緑ひげ効果で説明される。

緑ひげ効果

緑ひげ効果の緑ひげとは、もし人で緑のひげを持つならとても目立ち他人に容易に識別されるだろうと言う比喩である。このように、他とは識別できる特徴持つ個体同士が、利他的に振る舞うことで互助援助するという仮説である。 緑ひげ効果は次の3つの表現型を作り出す遺伝子によって引き起こされる。
  • 人間に例えれば、自分自身に緑の顎ひげのような、他人とは異なる目立つことで認識が容易となる特徴を形成する。この認識できる特徴にちなんで緑ひげ効果と名付けられた。
  • その認識できる自分と同じ特徴を持つ他個体と、持たない他個体を識別できる能力がある。
  • その認識できる特徴を持つ他個体に対して利他的に振る舞える。
  • ”(引用p115-116)

最後に

この本が出版されたのは2009年。今は2019年、ちょうど10年前である。この本のサブタイトルはダーウィンも誤解した150年の謎を解くとされたが、正しくは140年であると書かれている。すると今年2019年はちょうど150年となり縁を感じた。 この記事では、著者が発表した、擬態種のチョウのうちメスだけが擬態する理由を鳥の最適採餌選択とチョウの体温調節機構に原因があること、一部のメスだけが擬態する理由を擬態すること自体にかかるこすとと頻度依存選択の組み合わせで説明できるいった核的なことについては書かなかった。これらのことについては本書を読んでほしい。

擬態の進化 ダーウィンも誤解した150年の謎を解く [ 大崎直太 ]

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